啓発情報誌 ス・テ・キ
Kanazawa-haku
金沢漆器  ハレの日を彩る、加賀蒔絵の麗容。
「鳳凰蒔絵盃洗」、「松竹梅蒔絵燗鍋」、「蒔絵宝尽 三ッ組盃」
「鳳凰蒔絵盃洗」
「松竹梅蒔絵燗鍋」
「蒔絵宝尽 三ッ組盃」
「ヘギ目溜塗四方盆」、「敷板盆6枚組」
「ヘギ目溜塗四方盆」
「敷板盆6枚組」
「ヘレンド 長安の春 楕円カップ」、「波紋筋丸盆」
「ヘレンド 長安の春 楕円カップ」
  「波紋筋丸盆」
「九谷焼瓔珞紋」、「朱縁高重」
「九谷焼瓔珞紋」
「朱縁高重」
「香合」、「オーナメント」
「香合」
「オーナメント」

酌み交わす酒、通う心―。

 日本では古くから、神聖な酒をひとつの盃で交わすことにより心と心が固く結ばれると考えられていました。そのため酒宴の席に用いる器は、人と人とのかけはしとなる、非常に意味深いものとして大切に扱われました。
  「燗鍋(かんなべ)」もそうした器のひとつで、燗酒を供する際に使うもの。中でも格調高い加賀蒔絵の吉祥文などをあしらったものが珍重されました。
  やがて客人をもてなす席では盃の献酬が礼儀とされるようになり、江戸後期に入ると取り交わす盃を清めるための盃洗(=杯洗 はいせん)が現れます。以降明治にかけて、盃洗としての機能美と装飾美を備えた漆器や焼物が多数作られました。
  職人が魂を込めて作った燗鍋や盃洗は、祝いの席で主の心意気を示し、膝を並べる人々の心を華やかに浮き立たせます。燗鍋から酒を注ぎ、互いに酌み交わすことで、人々はハレの日のひとときを共有します。そこにはもてなす人ともてなされる人の、あるいは作り手と使い手の「共感」の世界が広がります。
  普段の使い勝手ばかりが重視される昨今ですが、毎日の食事に使われる器だけでなく、一年に一度、あるいは一生に数度、特別な日に使う器も豊かな「使い勝手」をわきまえた器なのです。
  日本の文化が昇華、凝縮されたこれらの器、そして加賀蒔絵は、時を越えて人々に日本人のもてなしの心とその美意識を伝え語ろうとしています。


工程


■卵殻
福田 浩康作「飛翔棗」
福田 浩康作「飛翔棗」
金沢漆器は蒔絵をはじめとする多様な技術の集大成と位置づけられます。加飾技術のひとつである「卵殻」は鶉や鶏の卵を細かく砕き、砕片を貼りつける技法。卵殻の大小や置き方によって、平面的な表現にとどまらず、量感や遠近感、ぼかしなどの繊細で複雑な表現が可能となります。卵殻技術において独自の境地を開拓した金沢出身の蒔絵師寺井直次氏は昭和六十年に人間国宝に認定されました。

匠の技 福田 浩康 氏●ふくだ ひろやす
福田 浩康ものづくりへの熱い思いから蒔絵師を志す。金沢美術工芸大学漆工科聴講生を経て、昭和四十七年初代清瀬一光氏の門を叩く。昭和五十八年には人間国宝寺井直次氏に学ぶ。昭和六十二年「日本伝統工芸展」に入選、以来数々の工芸展で入選。現在、金沢市長町の工房で次女と共に伝統の技を守りつつさらなる技術研鑽に励む。「ゆっくりと時間をかけて良いものを創ること」がモットー。日本工芸会正会員。

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