啓発情報誌 ス・テ・キ
金沢九谷五彩鮮やか花鳥風月の伝統美 金沢九谷
17世紀中期に興り、約半世紀で潰えた古九谷。それから約120年後、古九谷の再生を図り、現代の九谷焼の元となる窯が加賀を中心に次々と誕生します。
その発端となった窯は、まず金沢で築かれました。
以来、約200年。華麗な上絵付けの伝統を受け継ぎ、発展させてきたのが金沢九谷です。
清水翠東
●清水翠東(しみずすいとう)/1910年石川県金沢市生まれ。本名、利吉。九谷焼画付師伊藤泰山氏、薩摩焼画師黒田孝次郎氏に師事。さらに宮崎翠涛氏に日本画を学ぶ。76年石川県伝統産業功労章受賞。81年通産大臣認定伝統工芸士。

清水翠東

清水翠東氏作品紹介
小茶器
小茶器
精緻な金唐草の紋様に、サギやカワセミ、ヒワドリなどを繊細なタッチで描写。氏81歳の時の作。湯呑みは径60mm、高さ45mm。清水氏所有、湯冷まし欠品にて非売。
銀彩偏壺
■銀彩偏壺
 
金帯小茶器
■金帯小茶器
  15号鮎傘立て
■15号鮎傘立て
花詰銘々皿
■花詰銘々皿
九谷陶芸 北山堂
■九谷陶芸 北山堂
野村右園堂
■野村右園堂

時代を超えて輝きを放つ繊細な職人手技の美しさ
九谷焼 伝統的な金沢九谷と称されるものは、九谷五彩(紫・緑・黄・紺青・赤)に金を加えた多彩な色使いの精巧な上絵が特徴です。小さな盃や湯呑みの内側に百人一首などを流麗な草書体で描き込んでいく細字描きや、煌びやかな釉裏金彩(地に金箔を貼り、透明度の高い色釉をかけて焼き上げる技法)を生み出したのも金沢九谷でした。
 この豪華で繊細かつ精緻な伝統技術を忠実に受け継いでいるのが清水翠東氏です。氏は13歳で九谷焼画付師の内弟子となって以来、絵付け一筋の画工。当時は年季が明けると日本画の勉強をすることになっていたそうで、氏も優れた写生力に基づく花鳥風月、山水、人物画が十八番です。また、器の地を直径1ミリ以下の金粒で等間隔に埋めていく正確無比の仕上げなどは、精巧さを誇る金沢九谷画付師の極み。現在92歳、画工歴80年ですが、未だに「画面構成には気を使う」という職人気質。そして「金を使わないすっきりとした九谷五彩で、これまであまり画題にしなかった珍しい鳥や動物も描いてみたい」と、新しいものへの創作意欲も衰えを知りません。

生活を華やかに彩る個性豊かな金沢九谷
 現代の金沢九谷は、絢爛な色絵を施した装飾的な作品から、普段使いの器までとてもバリエーション豊か。それぞれの持ち味を生かした使い方を考えるのも楽しみのひとつです。  
 例えば、伝統の豪華な色絵や精緻な金彩を現代のインテリアに取り入れるなら、装飾過多にならないように香炉などの小ぶりなアイテムがおすすめ。熟練の職人技で施された上絵はいとおしくなるような魅力があり、小さな香炉でも存在感は十分。従来、床の間の飾りや茶席のお道具だった香炉ですが、お香やアロマキャンドルなど香りが生活に定着した今、実用品として人気を集めています。
また、晴れの日やおもてなしのテーブルには、心浮き立つ華やぎが欲しいもの。そんなときは現代的な図案調の花絵の器が活躍してくれます。花鳥風月を基本とした金沢九谷の花模様は華麗でありながら、図柄や色使いに落ち着いた和のテイストがあり、和洋折衷の食卓の中でもしっくりおさまってくれるはず。テーブルの彩りとしてお役立ちの逸品です。
 近年、上絵付けだけでなく成形を手がける作り手も多くなりました。コンテンポラリーなクラフトも金沢九谷の新しい個性。多様な表情を持つ焼き物として金沢九谷はその世界を広げています。


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